ガリガリとアメの砕ける音が止んでいた。
不意に、ビリッと紙の破れる音が現れてそちらを見やると、涼羽は珍しくアメではなくて板ガムの包装を開封していた。
開いた口から一枚とりだして唇に咥える。
そうして端からちまちまと涼羽は噛み潰していった。ガムがすべて口内へ消えるまで、目で追う。涼羽は板ガム一枚を口に納めると、甘い味のしそうな舌を出して唇を舐めた。ガムにまぶされている細かい粉のことを思い出す。たぶんあれはガムが包装紙にくっつかないようにまぶされているのだろう。
まあその辺はどうでもいい。
ただ、歯応えのあるものが好きらしい涼羽が珍しくガムを持っていたことに好奇心が動いた。
いつもはロリポップとかポッキーとかチョコ棒とか、ああ、棒を咥えるのが好きなのかなコイツ。ホネっこでもやったらかじるだろうか、やらないけど。俺が怒られるから。
まあとにかく、俺は暇潰しに涼羽を見ていた。
それにしても俺の視線に気付かないフリをいつまで続けるのか。こんな露骨な視線なんて、向けられて二秒と経たずに気付くくせに。涼羽は相変わらず俺が嫌いだ。よかった。
しかし今日は機嫌が悪いらしい。表情には微塵も出ちゃいないけど。さっき荒っぽくアメ砕いてたし。知ってるかい、アメを食うようになってからその食い方にお前の心情が出るようになったことを。愛想なしのお人形さん。知らないよな、俺以外に気付いてんのサクくらいだもんな。紅月はカンでわかっちゃうんだからアメ以前の問題だ。
あ。
バサッと音がして、思考の中から視界の方へ意識を向けてみれば、涼羽の手の中にあったガムは長方形の外側の包みがひっくり返されて、中身の板たちがすべて傍に置いてあったシーツの上に寝っ転がっていた。
何をするのかと思えば涼羽はガムの一枚一枚から包装を外し、素っ裸になったガムをすべて重ね合わせる。一見、超分厚い一枚っていうか一本の板ガム、いや柱ガム? に見えないこともない。
それが二口で全部、消えた。涼羽の口の中に。あー、噛んでる噛んでる。あれはさすがに歯応えありそうだな。最初のうちだけだろうけど。

「涼羽、それよこして」

何の気なく言ってみた。突然話しかけられことに驚いたのか、いつもの反射なのか、びくっと肩を揺らしてから涼羽はロリポップを一本、これ? というように上げて見せた。違うっつのわかってるくせに、いやもしかしたら素でわかってないのか、どんだけイジメられたら俺のパターンがわかるのオマエ。まあ今はいいや。

俺はごろごろしていたソファから起き上がると、涼羽の目前まで行ってその鼻をキュッとつまんだ。オッドアイの目がぱちくりしている。そしてようやく"今からまたイジメられるんだ"と理解したらしく、鼻をつまむ手を掴まれた。けど、そんなんじゃ離しませんから俺。
案の定、しばらくして緊急事態よろしく大慌てで酸素を求めた口からガムは頂いた。梅か、まあ涼羽の好きな苺味はあまり見かけないしね。色は似てるんだろうけど。

…………あ。そういえば「マイナス感情を噛み殺すためにヤケ食いなんてしてないで、おにーさんに話してみなさい」と言うのを忘れてた。これじゃガム取っただけじゃん。
まあいいか。


fin.
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淡々とした天然S、ハルク視点の話。
涼羽はハルクが大嫌い。
(わざとでもそうじゃなくてもいじめるし(あ、嫌いというよりは大の苦手なのかも(いっそどっちもだ
ハルクは涼羽が大好きというかお気に入りというか。変人だから。
嫌われたり嫌がられるのが快感で、自分を好きな人ほど嫌いっつー嗜好の持ち主です。

変人だから!!



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