理性だけでは保てない何か、それが君への気持ちだったらいいのに


cantabile〜祈る〜


「翔!!お菓子頂戴!おかし!」

突然教会のドアを勢い良く音を立てて開き、入ってきたかと思うとすぐさま走ってこちらへ向かってくる少年。最初の頃は驚いたけど、今では日常茶飯事になってきた。

「スズ!音たてるなって言ったでしょー!」

「うーん、分かった。じゃぁお菓子頂戴?」

「・・・・分かってない・・・・。」

毎度毎度注意はするのだが、一向に止める気配のない涼羽に呆れてはいたものの、自分に一番近い存在だということに変わりはなかった。ほんと、馬鹿なんだか、それとも狙ってやってるのか。

「もー。分かったよ、お菓子は向こうにあるから一緒に食べよう?」

「うん!翔が作ったのは美味しいからなぁv」

綺麗な色をしたオッドアイを細めて、自分が作ったお菓子を食べるのを楽しみに、ウキウキと足を運ぶ涼羽がなんとも愛らしかった。こんな自分に笑いかけてくれて、こんな自分を褒めてくれる人なんて滅多にいない。貴重な人だと思った。自分には、勿体無いくらいの子だと。
分かってる、自分が人を愛す権利なんて無いこと。愛してしまったら最後、始まりは終焉へと向かうこと。分かってはいるんだ、でも、どうしても----。

「翔、どうかした?顔色悪い。オレ来ちゃ駄目だった?」

考え込んで黙ってしまった翔を心配して、涼羽は顔を覗き込んできた。灰色の髪はさらりと垂れ、顔立ちの綺麗な顔にふらりとかかる。あぁ本当に、綺麗な瞳だね。

「あ、いや全然!ごめん、有難う来てくれて。僕も会いたいって思ってたから。」

これは本音だ。決して嘘なんかじゃ、偽りなんかじゃない。今までずっと嘘のベールをまとってきた翔にとっては、それを剥ぎ取ってくれたのは涼羽が2人目だった。1人目はもう遠い場所へと旅立ってしまったけれど。本音で話すことに対して、以前は懸念と憎悪を持っていた。何故他人に心のうちを悟られなくてはならない?それも自分から話すなど、なんと愚かなことか。そう、思っていた。思っていたはずなのに。

「なら良かった。お菓子食べよ。」

この愛らしい笑顔に、僕は負けてしまったのかもしれない。時々悲しげな無慈悲な瞳に惹かれたのかもしれない。気づけば思いを打ち明けることが多くなって、その内言わないと駄目になってきて。彼がいないと自分が脆くなっていくことに、気がついてはいたものの、認めることがなかなか出来なかった。だって人に頼って生きては駄目だから、そんな権利、僕にはないから。

「うん、食べよう。今日はスズの好きな○○なんだよ、沢山食べていいからね。」

でも、でもスズと話してるとそんなの関係なくなっていって。認めるとか認めないとか、負けるとか権利とか。そんなの全部関係無しに、ただ話して笑いあうことが楽しかった。嘲笑でも自嘲でもない、本物の笑みを浮かべることが。ただ、幸せで、美しく輝いていて。大切にしたいと思ったんだ、今回は絶対絶対何が何でも護りたいと。

「何、ニヤニヤして。オレなんか可笑しかった?」

「ううん、可愛いなって思っただけ。お菓子どう?美味しい?」

「可愛いって・・・・オレ女じゃないんだけど。でもお菓子は旨い。ありがと。」

不満という言葉に飾りをつけず、率直にただ真っ直ぐに言う彼が好きだ。護りたい、本当の意味で。昔のような狂気沙汰ではなく、希望という光を残したままで護りたい。ガラスの様なその心に、傷をつけることだけはしたくない。

「ねぇ翔、歌ってよ。とびきり良い声で。」

「全く、とびきり良い声なんていつもだろ。じゃぁね、『   』を唄うよ。」

だから、面白おかしく冗談を言って、君に捧げる歌を歌う。永遠に、僕が居なくなっても君が立って前へ進めるだけの唄を。永久に君を護ってくれるような、幸せを与えてくれるような歌を、君の記憶として刻む。それがしたいから、それしか、できないから。無力な僕でも唄という表現法があるのなら、どうか君に届いて。大切な君へ、愛しき君へ。



幸せな日々は 君の中に



End.
++++++++++++++++++


刹羅由貴さんより頂きました! ゆっきーありがとーーーう!!
スズをやさしく甘やかしてくれるかけるんにキュンキュンですv
そして真剣に、まっすぐスズのことを想ってくれるのが本当に嬉しいです。
どうか涼羽の存在でかけるんの心が少しでも温まり続けますように*^^*
和やかな二人のやりとりに自分もとても癒されましたv
改めて、素敵な小説をどうもありがとうございました!

ユリヤ