「雨の中の陽だまり、散らない淡雪」と「夜空は星の涙を流す」の二つを載せています。






雨の中の陽だまり、散らない



(あ、)
葵だ、と直感的に思った。屋外、アパートの下じゃない場所で葵の姿を見るのは珍しい。もしかしたら知り合う前にもどこかで擦れ違っていたかもしれないけど。
相変わらず艶やかそうな黒髪――でも葵だと思った理由は、それよりも“雰囲気”の方が大きかった。こんな雨の日でも、そこだけ穏やかな日が当たっているかのような。だから、視力のあまりよろしくないオレでもすぐにわかる。
「・・・・・・・・、・・・・」
歩み寄っていこうとして――やめた。葵は、笑っていた。誰かの隣で。
あれが例の“なかなかお菓子を受け取ってくれない男の子”だろうと思った。
あいにく後姿しか見えないけれど。葵がとても幸せそうだから、きっとそう。
・・・・・・遠いな。
さっき一歩踏み出せたことが不思議に思えるほど。葵に会うためだけに歩き続けた日があったことが、夢のように感じるほど。この距離は何だろう。・・・・・・解りたくない。
・・・・・・それでいい。
あんな楽しそうな葵が見れたし。何話してるか知らないけど。あ、お菓子――
――受け取られたのかどうか、は、知らないまま。顔を背けて歩き出した。
ただ。なんとなく、アレは食べる気しないから。
受け取りなよキラ君?(だっけ。)

「あー・・・・・・カヲル公園に置きっぱなしだ」

いなくなってたりしてね。もう車椅子があるんだから自分で動けるんだし。
ああ、でも渡しといた傘が邪魔かな。そんなの畳めばいいか。オレの傍にずっといるなんてアイツにとっては厭悪するべきことで。いつ、離れていったっておかしくない。
いっそ、(     )
「・・・・・・馬鹿。傘くらいちゃんと持ってろ」
こっちへ静かに視線を持ってきたカヲルは、開いたままの傘を下ろしていた。
店が石段を登った先にあるからカヲルをどうしようか迷って。結局、この公園にカヲルと一つしかない傘を置いて店まで走ったのに。何だかんだでオレも濡れてるし、「お前まで濡れてるし・・・・」白い髪についた雨滴を乱雑に払った。
「      」
何も言わず、カヲルは微動した。傘を見て、空を見上げて、またオレを見て。
「・・・・傘をよけてまで雨空が見たかったとでも? 何が綺麗なのやら」
カヲルの世界はオレには見えない。・・・・違う、オレにはオレの世界しか見えない。他人の世界なんて理解できない。――ふと笑っていた葵を思い出して何故か苦い気分になった。
空の暗雲がオレの中まで入り込んできたみたいだ・・・・・なんて思っていると。
白い髪の下の、白い顔についた水滴を袖で拭おうとしたオレの頬に、白い手が伸びてきた。そのまま目尻の辺りを弱い力で撫でる。
そしてカヲルは微かに笑んだ。
「・・・・・・そういえばお前も笑うんだっけ。ホントにオレの眼、好きだね」
どこかの陽だまりとは違う、淡雪みたいに恐ろしく儚い笑顔だけれど。
ああ、でも、なんか、
「――イライラする。・・・・・いなくなってればよかったのに」
乱暴に手を払った。さっさと車椅子の後ろに回る。傘をしっかりとカヲルの頭上に来るように持たせて、(元からかけていなかったブレーキなど見ることもなく、)車椅子を押して歩き出した。
イライラする。イライラする。イライラする。

中途半端に遠いなら。中途半端に厭うなら。・・・・・何も理解しきれないままなら。
――すべてにオレを完膚なきまで拒絶してほしかった。


fin.
++++++++++++++++++++


「完膚なきまで」=「(傷のないところがない程まで)徹底的に」。あえてこの表現。
寂しいくせにもっと寂しくなるのが嫌だから最初から果てしない寂しさを与えてくれと。
我侭だなぁ(・ω・)そして勝手だ

ユリヤ









は星の涙を流す


放課後の屋上は曇り空の下で、閑散とした微風に吹かれていた。もうすぐプールへと変えられるこの場所。今日、また翔と二人でいる場所。日が出ていないから、いつもの日陰には座らずに屋上を一周するフェンスへ寄りかかった。
翔は隣にいる――いつかはいなくなるのだろうけれど。

「・・・・・イチゴ、」
「ポッキーならあるよ」
「反応速いね、さすが」

まぁね、なんて言って翔は微笑する。満面の笑みとかいうのは見たことがない。そして多分、オレも見せたことがない。ああでも、勿体ないな。翔はきっと凄く綺麗に笑うんだろうに。
たまに見せる、歪んだ笑み。自嘲した笑み。作られた笑みはよく見る。
そしてそのどれもが、いつもどこか愁えるような色を帯びて瞳を翳らせていた。
翔の瞳は夜空みたいだと思う。
色が、というわけではなくて。翔の持つ空気が翳る瞳に夜空を作るから。その瞳の奥に秘めているものも微光を放つ星となって、密やかに存在している。何を想っているのかは知らない。誰もが闇を持っていることを知っているだけで。でも翔の持つ闇はどうしてか、綺麗だと感じるから。

「もっと笑えばいいのに」

笑顔から作られる夜空は、微光を放つ星も姿を変えて一等星みたいに輝くんだろう。重い感情を抱えた暗い夜空もいいけれど、そっちの方もきっといい。

「・・・・・そう言われても、特に笑えることなんてないし、ね」

そっか、と軽く返事をしてイチゴのチョコでコーティングされたポッキーをかじった。あ、爪が欠けてる。蹴り飛ばされて床を引っ掻いた時にでもやったのかな。そういえば、こないだは翔も殴られてたっけ。頬が赤かったな。・・・・・・助けたりなんかしなければよかったのに。でも、翔はきっとアレでよかったんだろう。
翔がそれで満たされるなら。望ましくない展開だろうと、友情と紙一重の偽善だろうと、利用価値に挿げ替えられた義憤でも“人間らしい”その純粋で混濁した感情は、受け入れたい。真っ直ぐな屈折で描かれているそれが、愛しい。

「かける」
「ん?」
「あっち向いて」

いいけど・・・・と横を向いたそこへ、キスを落とした。
あの日、赤くうっすらと腫れて熱を孕んでいた場所へ。
珍しく呆気にとられたような表情をしている翔に笑みだけ見せて、知らん振り。
別にお礼というつもりはないし、でも気まぐれでもない。
強いて言葉で表すなら“証”というやつだろうかと思いながら、何となしに小さく歌を口ずさんだ。

Searching for a place where I belong (居場所を探して)
I'm caught in between (どっちつかずの所へ陥ってしまった)
Every right's gone wrong now (素晴らしかったことがすべて今はもうダメになって)
Waiting for the day I see the sun (太陽に出会える日を待っている)
And I'm reaching, am I reaching in vain? (手を伸ばしてはいるけれど この手は虚しいだけだろうか)

fin.
+++++++++++++++++++


スズはかけるんをどう見てるかという。それだけなので短いっす。
涼羽には綺麗に見える(・ω・)
それぞれ、陽だまり=葵ちゃん、淡雪=カヲル、夜空=かけるんのイメージでした。

ユリヤ




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